うつりゆくもの 変わりゆくもの 石元泰博の世界10

《シカゴ 雪と車》1950年頃 ©高知県,石元泰博フォトセンター

シカゴ―雪の造形

周囲との景観の関係性など無視して、思い思いの建築が行われ、われ先に目立とうとする巨大な看板が建ち並び、瞬く間に増殖する日本の街は、美学を基礎とした都市計画があまりみられない。計画をしないという計画性により造られていく街はまた、日本独自の新たな都市風景として、外国の人の目には興味深く映るようである。

目に煩雑な景色も、雪が降ると、白という統一した色彩に包まれ、自然による臨時の美しい街が造られる。とはいえ、解けてくれば泥で汚れ、その美しさもすぐメッキが剥がれてしまうのだが。それでも、ひと時の街の雪景色は美しいもので、それは、山河の自然よりも美しいのではないかと思うことがある。心なしか人の心も穏やかになっているような気がする。無意識に視界に入ってくる騒音により、ざわついた人の気持ちを雪が静めてくれているのかもしれない。

優美な曲線によるフォルムと、ボリュームのある1940年代のアメリカ車。そこに雪が程よくたまり、風雅な姿が現れている。これは石元が在学中に撮影した作品である。すこぶるかっこよく、荘厳でもある。デザイン的にも美しいこの風景は、シカゴの冬の名物なのかと思ったが、なかなかこういう雪の付き方はしないらしい。雪が多すぎるのである。ちょうど雪化粧が美しく描かれ、人の気配もまだない“或る日”に撮影されている。

このシリーズを撮った時、学生時代わずか3枚しか見ていない、恩師ハリー・キャラハンの作品の1枚「雪の写真」が、石元の意識にあったという。キャラハンのその写真は、雪に覆われた中に、草のようなものがわずかに見えているという白が基調のものであったので、「自分はその反対をやってやろうと思って、黒に白、という風にした」そうである。

このシリーズは、車に積もる雪の写真が多いのだが、そのほか、重厚な木製のドアのレリーフや、鋼鉄の化粧フェンス、上り口の階段に積もる雪を造形的に捉えたものなど、人間(人工物)と雪(自然)との見事なコラボレーションを感じさせてくれる。

この冬は、例年に比べて初雪が早く、普段では積雪がほとんど見られない高知の都市部でも、昨年末(2005年12月)には観測史上2番目の積雪量を記録した。高知でも、今年はこのような美しい造形を見掛けるチャンスがあるかもしれない。

(掲載日:2006年1月10日)

影山千夏(高知県立美術館主任学芸員/石元泰博フォトセンター)