うつりゆくもの 変わりゆくもの 石元泰博の世界19

『ある日ある所』より 《東京 こども》 1953-57年 ©高知県,石元泰博フォトセンター

ある日ある所

先日、少し遅めの夏休みを取りフランスを旅した。マルク・シャガールのステンドグラスがあるランス大聖堂と藤田嗣治の教会を見るということ以外に特に目的もなく「ゆっくりと、きれいな町並みを散策しよう」ぐらいの気持ちだった。ところが思いがけず、石元の個展がパリ市内のギャラリーで開かれると知り「是が非でも見てみよう」の思いが旅の計画に加わった。
地図を片手にパリ・ラスパイユ通りにあるギャラリーにたどり着いたものの、“準備中”の紙が貼られ、シャッターが下りている。すき間から中を覗いてみると、石元の写真が壁にずらっと掛けられている。しばらくシャッターにへばりついて中を覗き込んでいたら、ギャラリーのオーナーがちょうど出勤され、高知の美術館から来たことを告げると、「ちらかっているがどうぞ」と中に入れてくれた。
10坪ほどのギャラリーの1階と地下のスペースに、石元の初写真集『ある日ある所』(1958年刊行)と最新写真集『刻』(2004年刊行)から、約50点が展示されていた。床には展示を待つ作品が並び、額装されていない作品(おそらく販売用)が、数箱キャビネットに置かれていた。このギャラリーでは、以前から石元作品を扱い、展覧会も何度か開催しているのだが、今回の展覧会「aru hi aru tokoro」と記された案内はがきを受け取った方々から、これまでにない反響があるとのことであった。
『ある日ある所』は、石元が学生時代に撮影したシカゴの写真と、卒業後日本に滞在した数年間に撮りためたものをレイアウト、装丁担当の山城隆一らとともに、数千枚の中から、200点近くにまで厳選し収録した、渾身の写真集である。「ある日、ある所」「海岸」「こども」の3部に構成されているが、シカゴと日本を分けて編集はされていないため、ページをめくると、ちゃんばらごっこで賑わう路地の向こうで、ハロウィンの子供たちが闊歩しているかのような錯覚を覚える。
「ある日、ある所・・・・すべてのものは生きている。」という石元の序文で始まるこの写真集は、生命力に溢れた豊かなふくらみをたたえており、半世紀たった今でも写真関係の人々の記憶に残っていて、語り継がれる写真集の一つとなっているのである。
この展覧会のために「ギャラリーは、変なセレクトをしていった。」と石元が言っていたのだが、そのセレクトは、うまくいえないがパリらしいといった感じだった。展示作品は、中でも特に洗練され、しゃれた雰囲気のある作品が選ばれていたようであるが、日本には日本の、シカゴにはまたその町の好みのセレクトがあるだろう。それもまた、“ある日ある所”なのかもしれない。

(掲載日:2006年10月3日)

影山千夏(元高知県立美術館学芸課チーフ兼石元泰博フォトセンター長代理)