うつりゆくもの 変わりゆくもの 石元泰博の世界5

《シカゴ ノース・アベニュー・ビーチ》1948-52年 ©高知県,石元泰博フォトセンター
《シカゴ ノース・アベニュー・ビーチ》1948-52年 ©高知県,石元泰博フォトセンター

ノース・アベニュー・ビーチ

シカゴ市民の夏のレジャーの一つは、海水浴ならぬ湖水浴である。内陸地のシカゴに海は無い。広大な五大湖の一つミシガン湖畔が彼らのビーチだ。面積58,000km2(琵琶湖の約90倍)という世界第6番目の面積を誇り、美しい砂浜でも知られる湖である。

湖畔に立つと、対岸ははるかに遠く、白い砂浜と打ち寄せる波はまるで海のようだという。ミシガン湖畔には幾つかの湖水浴場があるが、中でも有名なビーチの一つがリンカーンパークの南端に位置するノース・アベニュー・ビーチである。

これは、少年の足だろうか。上部に向かってスーッと伸びる足、アキレス腱の力強さ、しなやかでしっとりとした姿は、ミケランジェロの大理石彫刻を思わせる。にぎやかなビーチの人々の中で、少年だけが切り取られ、まるで違う時空がそこに存在しているかのような、屹然とした静けさがそこにある。

この写真では奥に数人の姿を見ることができるが、以前、左右をカットし中央の少年の足だけを残したプリントでも発表されたことがある。日本的であること、情緒的であることを避けてきた石元であるが、その表現は日本の様式美を代表する掛軸を想起させるものであった。

この作品のほかにも、ビーチのドリンク・スタンドに並ぶ人々の後ろ姿や、足を捉えた写真がたくさんある。そこには足だけしか写されてはいないが、楽しそうに談笑している姿や、ちょっと疲れてカウンターに肘を突いてのどを潤している姿など、フレームの外で繰り広げられている光景を色々と想像できて楽しい。<ノース・アベニュー・ビーチ>シリーズは石元の代表的なシリーズの一つとなった。

ほかにもう一つ、ビーチのシリーズがある。それは江ノ島(鵠沼)海岸である。ゴミがあちらこちらに散乱し、海水浴客でごった返すビーチの雑然とした風景が撮られている。砂浜には工事用のショベルカーが乗り込み、その横で日光浴をしている人もいる。よくこんな海岸でゴミと一緒にいられるものだ。ゴミがあろうが、ショベルカーがあろうが、自分たちが楽しめる場所があればそれで十分だ、といった感じである。

江ノ島(鵠沼)海岸の風景は、石元が神奈川県藤沢市の写真家、影山光洋宅の離れに住んでいた1960年代に撮影している。日本が高度経済成長に入り、都市開発と環境破壊が急速にすすめられはじめた時代である。もう一つのビーチ・シリーズには、あらゆるものが破壊され変化していることに、無関心な日本人の姿がそこに写し出されているように思える。

(掲載日:2005年8月2日)

影山千夏(高知県立美術館主任学芸員/石元泰博フォトセンター)