石元泰博・コレクション展「雲、紙、雪のあしあと」
バウハウスの流れを汲んだ造形感覚に裏打ちされ、時に即物的とも称される石元の眼差しは、晩年、刻々とうつろいゆく形なきものに向かいました。
水や氷の細かな粒子の集合体である雲は、時々の季節や気候によって自在に変化し、一時として同じ姿に留まりません。同じく水の変態である雪は、静かに降り積もってあわく柔らかな表情を見せるのも束の間、路上を行く人々に踏まれてシャーベット状に溶け、瞬く間に水となって消えてゆきます。
一方、紙を写した連作は、ラースロー・モホイ=ナジらの著書に触発されて取り組んだ、若き日の習作を彷彿とさせ、晩節にあって自らの創作を振り返った、原点回帰的な試みととらえられます。切り抜き丸まった紙片には定まった形があるものの、その存在を印画紙上に表すモノクロの諧調は、光の具合によって劇的に変化します。このことに、常に生成し消滅するつかみがたい現在をみつめた、雲や雪のあしあとの連作との共通点を見出すこともできるでしょう。
本展では、1990年代から最晩年に掛けて取り組んだ、うつろいゆく雲と雪のあしあと、そして紙を写したシリーズを紹介します。