石元泰博・コレクション展「国東紀行」
九州・大分県の北東部に位置し、まるでお椀を返したような形で海に突き出す国東(くにさき)半島。ここでは奈良から平安時代にかけ、大陸より伝来した仏教に宇佐八幡の八幡信仰(神道)を取り入れた「六郷満山(ろくごうまんがん)」と呼ばれる独自の神仏混習文化が形成されました。1976年頃、石元泰博は雑誌『太陽』の仕事でかの地を訪れ、大陸より伝来してきた文化である自然の岩壁や露岩等に造立された磨崖仏(まがいぶつ)や切り出された石を素材にした石仏と、日本古来の文化である山岳・岩に対する信仰が共存し、固有の文化となった国東仏教美術を体感します。これは日本人の根っこだからやらなきゃいけない、と使命感を抱いた石元は、日本人は一体どこから来たのかという自らの問いをきっかけに撮影に取り組みました。
当時の石元は京都・東寺の伝真言院 両界曼荼羅の撮影を経て、仏像や曼荼羅に人間の生命観である「エロス」を見出していました。国東半島の石造美術にも土着文化の荘厳さと力強い生命力を想い、また、小さな茂みの中にひっそりと立つ石仏にさえ花と茶碗の水が供えられている様子や、山裾の木立に佇むのっぺりとした表情の仏に、国東で感じた住民の素朴さや温かさを重ね合わせています。
そのような国東への興味は絶えず、写真集『日本の美 現代日本写真全集』の主題に、石元は国東半島を選び、「国東紀行」として1978年に小学館より出版しました。それは、かつての日本人が持っていた力強さや人間味をいま一度見直すべきという当時の日本に対する警鐘であり、臼杵とその周辺も含め訪れ丁寧に収められた写真こそが、石元の答えと言えるでしょう。本展では、写真集に掲載された作品を中心に、石元自身の手によるオリジナル・プリントを紹介します。