石元泰博・コレクション展「水と人のながれ」

晩年の写真集『刻』(2004年)は、身の周りのうつろいゆくものを写した6つのシリーズ――落ち葉、空き缶、雪のあしあと、雲、水、人のながれ――によって構成されています。本展では、このうち最も遅い時期に取り組まれた〈水〉と〈人のながれ〉に焦点を当てます。
〈水〉は、日々自宅近くの目黒川に通い、その水面を写したシリーズです。潮の満ち引きを調べ、光や風を読んで撮影された写真群は、微細なさざ波の質感を克明に捉えたものから、日の光が水のうねりに反射して錯綜する抽象性の高いものまで、同じ川面を写したとは思えないほど多彩な表情を有しています。
いっぽう〈人のながれ〉は、雑踏に出掛け、レンズの前を通り過ぎる人々をノーファインダーで撮影したものです。スローシャッターを用いた大胆なブレによって、道ゆく人の身体や都市の風景が、流動的な光の軌跡として捉えられています。
いずれの被写体も、形ある物質として存在しながら、絶えず動き変容し続けているという点で共通しており、具象性を失い非物質的で純粋な光として定着されたイメージは、「肉体や物はいずれ消滅し、粒子になって螺旋を描き永遠に上昇していく」という、石元晩年の死生観を反映するかのようです。
右:《水》2001年 *後期にて出品
©高知県,石元泰博フォトセンター