石元泰博・コレクション展「包まれた食物」
食品トレーの上に綺麗にラップをされた鯛のお頭、食べやすいように解体されたカニの足、使いやすいように半分に切られたかぼちゃ。普段スーパーで販売されている食品の数々を20×24インチにもなる大型のポラロイドカメラで撮影したのが「包まれた食物」シリーズです。これらを撮影する数年前、石元泰博は『アサヒカメラ』に1982(昭和57)年の1年間「食物誌」と題して、妻の滋の文章を付した、食品24点の写真を掲載しています。どちらの作品にも共通しているのは食品がラップや包装で「包まれている」こと。この「食物誌」の中で滋は子供の頃高価で食卓にあまりあがることの無かった鯛を「今は、ちょっと財布の紐を弛めれば誰でも買える。ただしそれはバラバラに解体された一部分、ラップの中のお頭は、まさに唐竹割りに正面から身二つにされた片割れである。」*と、便利さの追求の先に鯛の特質や個性が失われていくのを憂いています。
80年代、日本の生活は、大量生産、大量消費を享受することで豊かになりました。しかし、この流れが食品の均一性、便利さを追求することにつながり、食品の個性や安全性を失わせてしまいました。このような問題を石元はこの「食物誌」「包まれた食物」シリーズで表現したかったのではないでしょうか。
*石元滋「食物誌」①『アサヒカメラ』1月号(朝日新聞社,1982年)