石元泰博・コレクション展「HANA」
大きな花びらを細い花柄が支えている花の仕組み、自然の不思議さに魅了され、石元が東京の自宅の居間に簡易スタジオを作って花を撮影し始めたのは、昭和61(1986)年のことでした。
自宅の居間に黒いレフ版、ストロボをセットし、花がつぼみから開き、枯れていくまでを撮影していきます。すぐに写真集として出版も決定し、出版社からは3か月で撮影を終了して欲しいという注文を石元は1年に延ばして撮影を続けました。それは、3か月で撮影できる花が限られ、四季の花を撮影したいという石元の思いがあってのことです。そんなこだわりもあって『HANA』には、初夏に花が咲く芍薬から、夏の向日葵、秋の菊、初春の水仙と四季それぞれの花を見ることができます。
『HANA』の巻末に石元は「花を撮る」と題して文章を寄せています。その中に「改めて今、写真を並べてみると、なんだ唯の花じゃないか、と笑われそうであるが、私は私なりに、大真面目で、花の造形と、レンズをはさんで対峙したつもりなのである」とあるように、花の造形の美しさと生物としての儚さが作品の中に込められています。さらに石元は「この花達には色がない。私はわざと色をさけた。勿論第一にはかたちにこだわって撮ってみたいという願いがあったからだが、巷の、まるで狂気としか思えない色の氾濫に対する、いささかの抵抗もあった。と今になって思っている。」と綴っています。そこに他の写真家の撮影した「花」や「Flower」ではない石元の「HANA」の特徴が表れているのです。
本展では、写真集『HANA』に掲載された作品を中心に、石元自身の手によるオリジナル・プリントを紹介します。