石元泰博氏写真作品等の利活用に関するビジョン
1.高知県立美術館と石元コレクションについて
高知県立美術館は、「マルク・シャガール」「新表現主義および表現主義の作家」「郷土関係作家」という収集方針のもと、優れた美術作品の収集・保存・研究・公開・教育普及活動を行うために、平成5(1993)年の開館以来、国内外の芸術を幅広く紹介する展覧会や公演、ワークショップ等を開催してきた。世界的な写真家として知られる石元泰博氏は、高知県高岡町(現土佐市)出身の両親の長男として米国サンフランシスコに生まれ、幼少期から10代にかけて高知県で育ったプロフィールをもつことから、高知県立美術館にとって最も重要な「郷土関係作家」のひとりである。高知県立美術館は、平成13(2001)年の「石元泰博写真展 1946-2001」開催以降、石元氏の生前からお亡くなりになるまで段階を追って高知県にご寄贈いただいた作品や資料を整理・調査・研究する一方、これまでに特別企画展やコレクション展を度々開催し、2011年には館蔵品目録『石元泰博コレクション1 桂・伊勢』を刊行するなど、石元氏の業績を紹介する自主事業を積極的に行ってきた。また、石元泰博コレクション(以下、石元コレクション)の貴重性を鑑み、全国各地の美術館での石元展開催や高知新聞紙上の長期連載に協力するなど、その価値を社会に広める活動にも尽力してきた。現在の石元コレクションは、石元氏が直接手焼きを手がけたものだけでも、学生時代から晩年までの活動を網羅したプリント34,753枚、ネガフィルム約 100,000枚、ポジフィルム約50,000枚など、その数は膨大である。さらに書籍・写真集、カメラ機材、交流のあった他作家作品なども加わったことで、高知県立美術館における石元コレクションは、石元氏の写真表現活動に関わるほとんどすべてのものが一カ所に在る、という比類ない特徴をもつにいたった。また、併せて石元氏より著作権譲渡を受けたこともその独自性を際立たせている。この稀有な石元コレクションを社会の共有財産とし、多くの人々の利用に供する活動をより一層進めていくことは、芸術鑑賞を通じて地域文化の向上に貢献するという公立美術館の基本理念に照らし合わせても、きわめて重要性が高いといえる。
2.石元泰博フォトセンターについて
①意義
石元コレクションの網羅的な価値を一層高め、広めるために、高知県立美術館は、シャガールと並ぶ二大コレクションに位置づけるにとどまらず、長期的な保存・管理継続的な調査・研究、総合的な発信等を行う機関として、石元泰博氏の名前を冠した「石元泰博フォトセンター」を設ける。
②名称
高知県立美術館 石元泰博フォトセンター
③体制
石元泰博フォトセンターは学芸課内に置き、学芸員3名を専従とする。
センター長1名(学芸課長)、センター長代理1名(学芸課チーフ)を兼務とする。
3.目指す姿
「石元泰博フォトセンター」は、貴重な石元コレクションを後世に伝えるための「保存・管理」、「調査・研究」を基本に置きつつも、展覧会やデータベース等を通じた「公開」や、講演会等を通じた「教育・普及」活動に力を入れ、石元芸術を国内外多くの人々にとっての共有財産とするための場や機会を積極的に創出していく。また、その網羅性を補完するための「収集」活動を将来にわたって継続することで、総合的なアーカイブへとたゆまず成長させていく。
深める《保存・管理、調査・研究、収集》
●プリントやフィルム、資料や書籍等、それぞれに適した環境の整備と長期間の保存・管理
●石元氏や作品に関する継続的な収集活動と総合的な研究活動の実施
●国内外利用者、研究機関等との共同調査や研究による連携の構築
広める《展示・公開、著作権管理》
●石元コレクションの情報を対象としたデータベースの構築と公開
●展示に適した環境の整備と、常設展や企画展の開催
●他美術館等への作品貸出、共同企画展やコレクション巡回展の開催など、館外での作品公開の促進
●テーマ別レゾネの継続的な発行と、石元コレクション総目録の完成
●著作権の適切な管理と運用
つなぐ《教育・普及》
●多くの人々が石元氏の作品や人生に興味や関心をもち、理解を深める活動の展開
●高知県民に郷土ゆかりの優れたアーティストとして親しみや誇りを感じてもらう活動の充実
●オリジナルグッズや出版物等の企画や制作、頒布等を通じた普及活動の促進
4.活動内容
1)保存・管理
・プリントの状態や内容の確認、簡易複写等の基礎作業
・フィルムの状態確認
・資料や書籍等の内容確認とリスト化
・石元コレクションの保存・管理等について、美術館や研究機関等と連携
・収蔵庫内にプリント収納用の棚を増設し、より良い保存環境を整備する
・現ライブラリーや講義室を改装し、常設展示室・作業・保管室を備えた「石元コーナー」を整備
(フィルム保管庫を移動し、フィルムや資料、書籍等を管理)
・フィルムの内容調査
・プリントやフィルムのデータベース公開に向けた準備
2)調査・研究、収集
・美術館や研究機関等のアーカイブ活動についての実態調査
・作品所蔵機関の調査
・プリントやフィルムの撮影に関する情報調査や掲載誌等の文献調査・収集
・関係者へのききとり調査
・美術館や研究機関等とのネットワーク構築
・調査・研究のための助成金や補助金等の申請
3)展示・公開
・常設展の通年開催
・企画展の開催及び、図録の発行
・他美術館等への作品貸出等を通じた、館外での作品公開
・プリントや書籍、家具等の常設展示(展示場所:石元コーナー)
・石元コレクションの部分的なウェブ公開
・美術館連絡協議会への企画展提案
・県内外の文化施設における石元コレクション展等の開催
4)著作権の管理・活用
著作権の適切な管理・活用(クレジット表記は下記のとおり)
©高知県, 石元泰博フォトセンター
©Kochi Prefecture, Ishimoto Yasuhiro Photo Center
5)教育・普及
・石元氏と親交のあった方や研究者を招いた講演会やシンポジウムの開催
・HPにサイトを立ち上げ、ウェブ上でミニ展覧会を行うなど、広報活動を推進
・ポストカードやガイドブックなどのオリジナルグッズの制作、頒布
・高齢者から子どもまで幅広い世代の県民が石元芸術に親しむための活動を検討
・マスコミ等外部の協力者と共同した広報活動を検討